壁画制作日誌

     

   

   

 壁画制作日誌

 

1作目

それは、PTAの奉仕作業で校舎内の汚れた壁に白ペンキを塗っている時でした。
粗方塗り終えようとしていたときに、校長先生が、
「どうせ塗るんなら、國井先生に子どもたちが喜びそうな壁画を描いてもらいたいなあ。」
と、軽い気持ちで(おそらく)言った言葉が始まりでした・・・・・・・。

 その言葉を真に受けた私は、子どもたちを喜ばせてあげたいとワクワクしてあれこれアイデアを練っていました。1か月ほど…。
 そして、会議の席で先生方に、実は校舎の壁に絵を描きたいこと、それは子どもたちが喜びそうな絵にしたいことを話しました。すると、
「それなら、国語の教科書に載っているお話の絵なんかがいい。」
「子どもたちにもっともっと本に親しんでもらいたい」
「絵の前で、子どもたちと群読をしたら素晴らしい。」
「図工の絵の関心意欲にも…。」
などと、先生がたも大賛成して下さったのです。

 そして、校舎を回ってどこに絵を描いたらよいかの「プロジェクトX」が始まりました。
 校長先生が始め考えたのは、購買部横の壁でした。ちょうどいま私の水彩画の絵が飾ってあるのですが、そこはあまり子どもたちが通らない場所だし、教室から遠いのです。
 広い場所で子どもたちと活動できる場所は・・・・?
 ありました。
 第二ホールの廊下側の壁です。

 記念すべき第1号の絵は、そうして出来上がりました。
 1学年教材「くじらぐも」です。
 
 どのようにしてこの大きな絵を描いたと思いますか。それもたった3時間で・・・。

2作目

幻の壁画(その後 消去された)

 私が次に描いたのは、「おおきなかぶ」です。
 この絵の前で子どもたちが先生と一緒に劇をする姿を想像しながら描きました。
 場所は、2階廊下(昇降口の上)です。
 ここは、子どもたちが給食の配膳のためにワゴン車を運搬するときに通る場所なのです。
 
出来上がった絵をご覧になった校長先生は、
「ここの手すりにロープをかけると、かぶを引っ張る劇ができそうだね」
と、もうすでに授業の様子を想像していました。

 

 

 

さらに、私は子どもたちを驚かせてやりたいと考えました。
 思いついてアイデアは、トリックアートです。
 トリックアートは、専門の美術館があるので子どもたちには親しみがあるかもしれないし、もし実際に学校でそれを見ることができたら、すばらしいなと考えました。もう、私のワクワクは止まりません。

 出来上がった絵は、
1学年「はなのみち」です。
 くまさんが種子がはいっている袋をもらったんだけど、穴があいていて、知らずに歩いているうちに種がこぼれ、やがてそれが花の道になったという素敵な話です。
 トリックアートのためには、床にもペンキを塗らなければならないのですが、
 「子どもたちの安全や教育上の妨げにならないのあればいい」
 と、お許しを頂きました。

 できあがった絵は、ある場所から見るとちゃんとはしごがかかったように見えるのですが・・・。
 

どうでしょうか?

 

 

 

4作目

 やっぱり「ごんぎつね」は外せない。
 次に描いたのは、
4学年「ごんぎつね」です。

 これは、物語性をどう表現するか悩みました。
 あまり描きすぎても読み取りの妨げになってしまうからです。

 そこでたどり着いたのは、コーナーを利用して、象徴的な絵を配置するというアイデアでした。
 壁の下側に消火器があって、きつねが描けないので、壁の上に描かなければならないのですが・・・。
 不自然にならないように、踏み台を描いて、そこによじ登って壁の向こう側の兵十の様子をうかがっている様子を描きました。
 壁の向こう側には、栗やマツタケ、そして囲炉裏端の兵十を描きました

 

 

 

 

5作目

校舎壁画も5作目です。
 もう校内では、子どもたちが
 「今度はどんな絵かな?」と、期待が高まっています。
 そこで描いたのが、
5学年「大造じいさんとガン」です。

 この絵は、ペンキを使いませんでした。
 扱いが大変で、準備も大掛かりになるからです。正直なところ、忙しい仕事の合間に描くので、大がかりな準備は大きな負担ですし、費用もかかります。ペンキ代もばかになりません。
 そこでまた、アイデアを絞りました。
 費用がかからず、手軽に描けるものはないだろうか・・・。

 「よし、チョークで描こう。」
 チョークなら学校で手軽に手に入りますし、大がかりな準備も要りません。
 近くの教室からチョークと黒板消しを借りて、保健室からおう吐物処理用の使い捨て手袋をもらって描いたのがこの絵です。
 チョークだけでは表せない部分は、クレヨンを使っています。チョークで描いては指でこすったり、黒板消しで伸ばしたりして出来上がりました。
 しかし、欠点はこすると、チョークなので落ちてしまうのです。
 子どもたちの触れる部分だけ、フィクサチーフ(定着スプレー)をかけました。
 次の日、子どもたちが
「なんかいいにおいがする。」
 と言っていたのは、このためです。
 
 子どもがいない休日に学校へ来て、2時間ぐらいでできました。

 

6作目

幻の壁画 2年 お手紙 (その後 消去された)

代わりに描かれたのが

2年「スイミー」です。

 

 

 

7作目

冬休みが明けました。休み中に3学年前の壁面に絵を描きました。
3年「モチモチの木」です。
このお話も挿絵の滝平二郎さんの切り絵の印象が強烈すぎるので、
あえて、パステルとチョークで描いてみました。

原作の挿絵は、和風の切り絵ですが、パステルカラーを使って色彩的に描きました。

冬の寒々しい景色の中で、じさまを思う豆太の優しさが伝わるような情景を感じてもらいたいなと思います。

正面画像

 

8作目

 最後は、6学年です。
 宮沢賢治の「やまなし」は、難しいですね。
 雰囲気だけぼんやりという描き方もあるし、カワセミや、カニなどを具象的に描く描き方もある。
 まだ未完成です。
 とりあえず、
 裏面に賢治が模索している様子を描きました。

 

 

9作目

 

今日、学校へ行って未完成だった6年生の壁画の続きを描いてきました。
 
6年やまなしです
 やまなしには、作者宮沢賢治の造語が出てきます。
 クラムボンは、わらったよ
 ・・・・
 クラムボンは死んだよ。
 ・・・・
 など、児童にとっては難解なお話です。
 その世界を表現するのは、難しいし、教科書の挿絵も
 物語のイメージを損ねないように気遣っているように感じます。
 私はあえて具象的に表現してみました。
 人生経験の浅い児童には、やはり視覚的な援助が必要と感じたからです。
 お話を読み取った後で、ぼんやり壁画を眺めてみると、
 今まで見えなかった何かが見えてくるような絵を描きました。

 実はこの絵は、視点がいくつもあって、
 厳密な遠近法には従っていません。
 でも、
 それにはわけがあります。
 時間軸が縦方向に移動しているので、それによって視点も移動しているからです。
 写真と絵の違いは、視点の数もその一つなのではないでしょうか。
 水面を見上げる視点から、
 水底を眺める視点よ移動するにつれて、時間も経過するような仕掛けをつくってみました。
 水底にある山梨は、手前にあるので、大きくなって見えています。

 私の絵で子どもたちに一番感じて欲しいのは、

 「命のつながり」と「自然のバランス」の危うさです。

 小さな川の中で繰り広げられる命たちの小さな囁きは、

 ある程度の科学的・社会的な知識なしには読み取ることができません。

 水の中の生き物たちの知。

 それを狙う生き物たち、食う食われるの世界の危ういバランス・食物連鎖についての知識。

 水の中の言うに言われない緊張感。

 世の中の殺伐とした世相・・・・・・・・・。

 明治のころの国内政策。対外政策。

 そこに落ちてきた、山梨の醸し出す幸せな香り。ひとときの幸せな世界。作者は何を言いたかったのでしょうか。

 そういう意味で、裏側に宮沢賢治を描きました。

 ただ読むとわけのわからない話でも、科学的・社会的な知識をそばに携えると、

 うん。うん。なるほど。頷けるような気がします。6年生だからこそ、読み取ることのできる教材です。



 子どもたちの反応が楽しみです。

 

 

 

 

 

10作目

校舎の壁画もいよいよ大詰めです。
 本日も日曜日ですが学校へ行って、描いてきました。
 一昨日本校PTAの表彰祝賀会があったのですが、
 校長先生が教育長さんに校舎の壁画を紹介したところ、
 喜んでくださったということで、教育委員会のお墨付きを頂いたものですから、
 堂々と描くことができます。

 今日描いたのは、職員玄関です。
 本校は、毎年ツバメがやってきます。
 そのツバメを描きました。


 昔から
「つばめは、幸せを運んでくる」と言われます。
 

 仁井田小学校にも
 毎年春に玄関から幸せを運んでくるといいですね。

 本校のますますの発展を祈念します。

 皆さん。ぜひ見に来てください。

 本物は、迫力がありますよ。

正面画像

 

 

 

 

 

 

 

壁画11作目

 

仁井田の四季シリーズもに作目になりました。

季節は夏から秋へと移りました。

仁井田の夕焼けはそれはそれは美しく、

ときに我を失って見入るほどです。

そんな秋の一コマを描きました。

学校田の上を白鷺たちが飛び交う風景です。

 

 

 

 

壁画12作目

それは、須賀川に大雪が降った日でした。

一人学校へ向かった私は、仁井田の冬の壁画の制作に取り掛かりました。

 

 

 

 

仁井田小学校の中庭には椿の木があります。

そこには雪が積もっていました。

 

そこで囀るヒヨドリを描くことにしました。寒い冬でも椿の蜜を狙ってやってきます。

学校に人がいるときには、来ませんが、休日に学校へ来る者にしか分からないことです。

私は、冬でも元気な子どもたちに想いを重ねてみました。

 

 

いよいよ私の壁画も

壁画13作目です。

でもこの壁画を描くのには大変な思いをしました。

今週も前にも増して大雪になったのです。

 

仁井田の春です。

春校庭の桜の木にやってくるメジロを描いてみました。

ちょうど二羽が会話をしているようにも見えます。

どんな会話をしているのか、鑑賞の指導にも役立つように考えました。

 

これですべての壁画が完成しました。

 

 

  

 

番外編

 

せっかく描いた壁画でしたが、本の挿絵を参考にして描いたものは、残念ながら消しました。

「大きなかぶ」と「お手紙」です。

校長先生から、「著作権があるので、壁画は公表できない。」

と言われたのが悔しいので、

それなら、すべてオリジナルにしました。

描く以上に消す作業は、疲れるものだし、残念な気持ちです。

でも、残った方々に迷惑はかけられないので、自分で消しました。

したがってこの壁画は、すべて私のオリジナルです。

物語の絵も、本文をもとに私の解釈で描いたものです。